≪企業格付≫
『企業格付』とは?
社長との会話の中で、現在の経営上の問題として必ず話題にのぼるのは、「貸し渋り」「資金繰り」「資金調達」などの資金についてのご相談です。
資金は、社長のお考えのとおり、「人・物・金・情報」等の経営資源のうち、現在中小企業に最も不足しているものかもしれません。
これに対するひとつの答えとして、私が考えるには、
1. 「企業格付け」を知ること
2. 「経営改善計画書」をつくること
3. 「中小企業新事業活動促進法」の承認を受けること
上記の3点に対して対応策を練ることにより、金融機関からもっと上手に融資金を引き出すことが可能です。それではその対応策についてお話したいと思います。
「土地も建物もすべて担保に入れた。
これ以上なにをすれば融資してくれるんだ。」
「企業格付」とは?
みなさんご存知のように、金融機関の企業に対する融資姿勢は大きく変わりました。いわゆる「貸し渋り」と呼ばれる融資選別・「貸し剥がし」と呼ばれる融資回収が行われています。
これは、銀行自身が生き残りをかけて、一定の自己資本比率を維持するために厳格な融資貸出金の評価(自己査定)を行っている結果です。
つまり業績が悪化した企業への貸出金で、その返済に懸念がある場合には、融資金回収リスクすなわち貸倒リスクを考慮(差引)し貸出金を評価します。
例えば貸出金100に対して貸倒リスクが80とすると、貸出金の評価は20となり、銀行の自己資本はその差額80ほど減少してしまいます。したがって銀行は自己資本比率を低下させないために、結果として問題のある融資貸出金の早期回収を図ったり、融資を停止したりします。
その貸倒リスクの判断材料こそが「企業格付け」なのです。
これは貸し出しのルールが大きく変わったということです。従来の右肩上がりの時代には、土地や株券などの担保さえあれば、銀行はお金を貸してくれました。
今は、「企業格付け」が大きくものをいいます。企業の企業格付けけが土地・株券に変わる借入金の担保なのです。格付けが高ければ、融資も思うまま、しかも金利も優遇されます。逆に格付けが低く、融資金回収のリスクありと判断されれば、融資金の停止、早期回収となってしまいます。
社長の会社はどのようにランク付けされているのでしょうか?
自社の格付を知ろう!
「企業格付け」の第一次評価は企業の決算書に基づく財務評価です。
金融機関ごとに点数の配分(スコアリングシート)は違いますが、財務評価では以下の安全性、収益性、成長性および債務償還能力により評価しているのは共通です。この財務評価の基準を定量的要因と呼びます。
定量的要因
安全性要因
自己資本比率
ギアリング比率
=有利子負債/自己資本
流動比率 など
収益性要因
売上高経常利益率
総資産経常利益率 など
成長性要因
経常利益増加率
自己資本額
売上高 など
債務返済能力要因
債務償還年数
インタレスト・カバレッジ・レシオ
=(営業利益+受取利息・配当金)/支払利息割引料
キャッシュフロー額 など
=営業利益+減価償却費
「企業格付け」の第一次評価では、特に「キャッシュフロー額」と「自己資本比率」が問題とされます。
「キャッシュフロー額」は簡単に言うと「お金の出入り」という意味で、債務者の返済能力を見る指標として重視されています。
「自己資本比率」は資本構造の健全性を示す指標であり、資本調達が健全に行われているかどうかを評価する基本的な分析値として重視されています。この2つの数値が良好であることが必要です。
第二次評価として、市場動向、景気感応度、市場規模、競争状態、業歴、経営者・経営方針、株主、従業員、営業基盤、シェア、競争力および外部監査などを評価要素に加味します。これを定性的要因といいます。
後にお話する「金融検査マニュアル別冊」には、自社の強みも重視し、総合的に返済能力や経営実態に貢献すると判断できるならば、積極的に高い評価を付け自己格付に反映させることが出来るようになった、と記載されています。この自社の強みこそが定性的要因なのです。
定性的要因
市場動向
景気感応度
市場規模
競争状態
業歴
経営者・経営方針
株主
従業員
営業基盤
シェア
競争力
外部監査 など
第一次評価、第二次評価を経て、最終的には第三次評価である修正自己資本や○○を経て最終的に「企業格付け」は決定されます。
格付をアップしよう!
「企業格付け」を上げるには「業績の向上(実績)」と「信頼性の向上(将来計画)」が必要です。
「業績の向上」には、定量的要因のアップを図ることです。
定量的要因をアップするには、定量的要因の中でも重要な指標である自己資本比率、ギアリング比率、売上高経常利益率、自己資本額、売上高、債務償還年数、インタレスト・カバレッジ・レシオおよびキャッシュフロー額の評価指標のスコアアップを図らなければなりません。
上記の重要な指標は、損益計算書では「売上高、営業利益、経常利益、税引後当期利益、減価償却額、受取利息、受取配当金、支払利息割引料」、貸借対照表では「総資産、自己資本、短期借入金、長期借入金、社債」により計算されます。
つまりこれらの勘定科目の数値を健全化することが出来れば、定量的要因の格付は上がり、「業績の向上」につながります。
「信頼性の向上」については、
一つは定性的要因を金融機関にじっくり時間をかけて納得いくまで説明すること、もう一つは経営改善計画を策定し予算と実績の業績管理をおこなうことです。
金融検査マニュアル別冊の事例では、銀行の担当者が、担当企業の返済能力や経営実態に貢献すると判断できるならば、積極的に高い評価をつけて自己査定に反映させています。今後、中小企業の経営者は別冊の事例を参考にして、自社の強みを銀行の担当者に十分に説明し納得させることが重要です。
定性的要因を説明するために関連資料を前もって準備しましょう。
例えば、業界統計の中で自社はどの程度の位置を占めているのかという資料、自社の技術力の強さを示す資料、販売力の強さを示す業界紙等の紹介記事、同業者や研究機関のホームページなどが説明のための基礎資料になります。
定性的要因について金融機関にきっちり説明するためにも、将来の業績予想を「経営改善計画」に落とし込み、その数字に基づき交渉することが不可欠です。
「経営改善計画」の策定については事項で詳説します。
中小企業の強い味方!
金融検査マニュアル(特に別冊)を読んでおこう!
一時は、この「企業格付け」において、そのタネ本である「金融検査マニュアル」の厳格な適用により、あまりに理不尽な「貸し渋り」や「貸し剥がし」が起こり社会問題化しました。
そこで金融庁は「金融検査マニュアル別冊」により、中小企業融資に対する金融検査マニュアルの解釈について、事例を使って明示しました。そこでは、中小企業の融資審査について、財務指標(定量的要因)だけでなく自社の強み(定性的要因)も重視するように指導しています。
金融機関側も、融資先企業の強みが総合的に返済能力や経営実態に貢献すると判断できるならば、積極的に高い評価を付け自己格付に反映させることが出来るようになりました。一時の決算書だけの画一的・硬直的な評価から、その会社の事情を考慮したかなり柔軟な対応も可能になりました。
このように「金融検査マニュアル別冊」は中小企業にとって銀行融資のための強い味方となります。銀行との融資交渉の前に一読をおすすめします。