ここだけ!新会計基準の勘どころ
最近の会計基準はよく変更があるな、と感じている経理担当者のために!
「ここだけ!新会計基準の勘どころ」。企業組織再編税や連結納税制度、連結会計、株式交換・移転、会社分割など会社組織制度の柔軟な再編にかかわるものから、キャッシュフロー計算書や税効果会計 など会社の国際的な比較検討を可能とするためのスタンダードまで、制度そのものというよりも背景や考え方を中心に解説いたします。
これを読んだ後に解説書を読めば、頭にスッと入ってくることうけあいです.。
平成13年税制改正において「企業組織再編税制」が整備されました。
これは持分比率が50%超の企業グループ内再編または共同事業を行うための再編のため商法上の会社分割を含む企業組織の再編をした場合において、ある一定の要件を満たすときは、税制適格としてその分割による資産の譲渡に対し、譲渡損益を認識せずに投資が継続しているものとして課税を繰り延べるというものです。
平成12年の5月に商法改正により会社分割制度が導入されました。
会社分割自体は新しい制度の創設ですが、その効果は合併や現物出資といった従来からの税度と実質的に同じ場合もあります。そこで会社分割のみならず合併や現物出資をも含んだ会社組織再編税制として整備されることになりました。
それでは商法上の会社分割からみてみましょう。
会社分割とは既存の会社(分割会社)の営業の全部または一部を他の会社に包括的に承継させるための制度といわれます。
会社分割の4類型
分割型 新設または吸収会社の株式を分割会社の株主に割当てる
分社型 新設または吸収会社の株式を分割会社に割当てる
新設分割 新会社を設立し分割した営業を承継させる
吸収分割 既存の会社に分割した営業を承継させる
この4つの組合せで分割型新設分割、分社型新設分割、分割型吸収分割および分社型吸収分割に分類することができます。
次に商法上の会社分割をした場合において、税法では適格分割と非適格分割があるといいます。その違いはどこにあるのでしょうか。
税制適格の会社分割は、まず持分比率が50%超の企業グループ内再編または共同事業を行うための再編であることが要求され、その要件が満たされたものにつき、さらに移転事業の主要な資産・負債の引継ぎ、移転事業の従業員の引継ぎ及び再編後の移転事業継続の見込みが必要とされます。
これらの要件を満たした企業組織再編のみが税制適格とされ、資産負債を簿価で移転したばあいには譲渡損益を認識しないつまり課税しない。
一方税制不適格となった企業組織再編の場合には、移転資産・負債は時価で譲渡したものとされ、含み益のある資産については課税の対象になります。
企業再編税制は平成13年4月より施行される予定です。現在まだ実務上の取り扱いについては不明な点も多いですが、今後は政省令等で明らかにされるでしょう。それまでは新聞などで積極的に情報をとりご紹介したいと思います。
平成12年度の税制改正大綱に連結納税制度の導入を平成13年度税制改正大綱に織り込むことが明言されました。
先進諸国においてはすでに導入されている連結納税制度ですが、
わが国では平成12年に株式・交換移転制度が、平成13年に会社分割制度を創設する商法改正があり、平成13年度税制改正により企業組織再編税制が新設されましたので、企業再編制度の整備は連結納税制度を残すだけとなっていました。
週間税務通信によると税務当局が目指しているのはイギリスやドイツのような損益振替方式ではなく、フランスやアメリカ型の連結納税制度であるとしています。
損益振替方式とは、連結会社の単独決算の課税所得を単純に合算する方式をいい、法人税申告書が2枚あれば連結納税の所得額が算出できる簡単な制度といえます。
これに対してフランスやアメリカは、グループ企業全体を一企業として課税所得を計算する制度を採用しています。これは例えば連結会社間で固定資産や棚卸資産の売買があった場合には、内部の取引として、売買による利益や損失が消去されます。
イギリスなどの制度に比べるとはるかに手間がかかり、連結決算の知識の必要とされるでしょう。
さらにフランスとアメリカを比べると、フランスでは連結対象子会社の範囲を95%以上所有の国内子会社の任意選択としているのに対し、アメリカでは80%以上の国内子会社はすべて連結しなければならないなど、アメリカはより精微、複雑な制度となっているそうです。
税務当局の目指している一番複雑なアメリカ型連結納税制度が採用された場合、より一層の会計の知識、特に連結決算の知識が必要とされるでしょう。経理マンも大変です。
連結会計
企業業績の情報は単独決算重視から連結決算重視へと急速に変化しています。
それは連結決算のほうが企業業績を正確に把握し、投資家に有益な情報を提供できるからです。
単独決算だけをみれば、恣意的に決算数値をよくすることが可能です。
例えば「とばし」です。
バブル期に生じた不良債権や多額の含み損を抱えた不動産を、子会社に含み損を抱えたままの簿価で譲渡した後、第三者に低い時価で譲渡する手法です。
単独決算では、親会社では含み損は実現されないので、いい決算が組めます。しかしその譲渡損は子会社が計上し,子会社の決算は大赤字になります。
連結決算では、親子会社間の取引は相殺消去されますので損失を計上せざるをえません。
連結決算はまずはこのような投資家を誤らせる情報を排除し、さらにすすんで正確な企業業績の開示を目的としています。
連結決算の連結とは、親会社と子会社の決算を連結し、持分法適用会社の損益を持分に応じて決算に反映させることをいいます。
具体的には、まず親会社や子会社の財務諸表を合算します。
次に、親会社子会社間の取引は、企業グループ全体としてみれば内部取引になりますので、これを消去します。売上と仕入、賃貸料と賃借料などの損益取引、貸付金と借入金、売掛金と買掛金などの債権債務、それから親会社で計上されている子会社株式と子会社の資本勘定も相殺消去します。
細かいところまでいえば、棚卸資産に係る未実現利益や子会社債権にかかる親会社で計上した貸倒引当金、グループ間で売買した減価償却資産の減価償却費なども相殺消去の対象です。
いづれにしても、連結決算の基本は合算して相殺消去することです。
それには、子会社から親会社にタイムリーな材料すなわち毎月の試算表はもちろんグループ会社間取引の明細の提供が不可欠で、この仕組みづくりに時間がかかります。
いったんこの仕組みが出来上がれば、あとはワークシート上で収集した情報を加工していくという作業になります。
キャッシュフロー計算書
なぜキャッシュフロー計算書が必要なのでしょう。
それは損益計算書や貸借対照表では読み取れないものが、キャッシュフロー計算書では読み取れるからです。
それは資金の流れです。
一般的な企業の経営サイクルは出資または借入れによる現金を固定資産等の設備に投下し,棚卸資産を算出または仕入れ、売上げることにより売掛金等の金銭債権となり、現金として回収する。
つまり現金、固定資産、棚卸資産、金銭債権そして現金というように資金は一巡します。
これをキャッシュフローに当てはめると、成長期においては財務キャッシュフローから資金を調達し,投資キャッシュフローをまかないます。つまり営業とんとん、投資マイナス、財務プラスのキャッシュフローになります。
成熟期には営業キャッシュフローと投資キャッシュフローがプラスになり資金を回収し、財務キャッシュフローを返済に充てる。となります。つまり営業プラス、投資プラス、財務マイナスのキャッシュフローになります。
また衰退期には営業マイナス、投資プラス,財務プラスのキャッシュフローとなり、営業マイナスを借入れにより調達していることがわかります。
キャッシュフロー計算書の中でフリーキャッシュフローが重視されます。
それは設備投資も借入金元本の返済も、企業の本来の営業活動により生じたフリーキャッシュフローの範囲内でまかなうことが健全なキャッシュフローだからです。
キャッシュフロー計算書の各項目
売上の売掛金や受取手形からの入金額から仕入れ債務の支払額を差引き、
そこから販売管理費を差引いたものが営業キャッシュフローと呼ばれます。
この計算方法を直接法といい、結果は同じですが、営業利益に減価償却費などの非資金項目を加減算して計算する間接法という方法もあります。
固定資産の購入費用などの投資、貸付金の支出及び収入、投資有価証券の取得等の出資を加減算すると投資キャッシュフローが計算されます。先程の営業キャッシュフローと投資キャッシュフローとを合わせてフリーキャッシュフローと呼び、企業のキャッシュ獲得能力をあらわします。
借入れや増資払込などによるキャッシュ・イン、借入金元本の返済などのキャッシュ・アウトを加減算することにより財務キャッシュフローを計算します。
この営業キャッシュフロー,投資キャッシュフロー及び財務キャッシュフローの金額を期首の現金等価物(現金と流動性の非常に高い預金と考えてください)に加減算すると期末の現金等価物の金額に合致します。
税効果会計
・税効果とは税務所得と決算書の利益のズレによる税金の前払いや後払いのことをいう。
・税効果会計の目的は、正確な企業業績を開示し、他社との比較可能性を確保することです。
上場会社に税効果会計が導入されました。
中堅・中小企業は税効果会計にどう対応すべきでしょうか。
まずなぜ上場会社に税効果会計が導入されることになったのかを考えてみましょう。
上場会社とはその名の通り株式を証券取引所に上場し売買される会社をいいます。
そこには統一された尺度による正確な企業業績を開示する義務があります。
それこそが税効果会計の導入の目的です。
税務は正確な申告所得の計算を要求しています。
したがって会計上の利益は所得金額計算の出発点。
そのため税務上の決算報告書はかなり柔軟なものになります。
それでは投資家には非常にわかりにくい。
税務と会計のずれを修正しましょうというのが税効果会計です。
つまり税務申告書で調整してあるものに関して、翌期以降の税金の計算に影響があるものは、その影響額をあらかじめ当期の税金におりこんでおきましょう、ということです。
その結果、決算報告書だけではわからなかった企業業績が非常にわかりやすくなります。
いま.ちまたでは税効果会計を適用していない企業には、資金の貸付を差し控えている、という声も聞こえてきます。
それはなぜかというと投資家にわかりにくいものは銀行つまり債権者にもわかりにくいということです。税効果会計を適用していないだけで、貸付金の返済に不安があるとみなされてしますのです。
これでは中小企業も税効果会計を無視できないのではないでしょうか
税効果会計をはじめ新しい会計基準では、時価会計,減損会計、キャッシュフロー計算書や退職給付会計など正確な企業業績の開示をその目的としています。
そこには上場会社,公開会社も中小企業も関係なく、積極的な対応が求められています。
またわれわれ税理士業界の中でも、恥ずかしながら、新会計基準ことに税効果会計についての知識不足がみうけられます。
ここからも、これから税理士の淘汰ははじまる、自戒もこめてそう思います。
株式交換・移転、会社分割
・株式を原資とする企業買収や業界再編が盛んになり、高株価経営を目指す。
・株式交換や移転の手法で完全子会社化すれば、連結納税制度を適用できる。
株式交換・移転により企業買収というニュースをよく耳にします。
これは企業買収の手段が金銭から株式へと移行したことを意味します。
つまり株式によるM&Aです。
ということは、株式の価値が企業の価値となり、
株価が高ければより他の会社を買収しやすくなり,
株価が安ければ逆に他の会社に買収されやすくなります。
そこでこれからの経営ではさらに株価が重視されていきます。
これまでの企業買収では金銭すなわちキャッシュフローがないと買収は不可能でしたが、
これからは,買収する会社に自社の株を割当てることにより買収します。
これが急速なスピードでの業界の再編成を可能とします。
日本においても平成11年度の商法改正で株式交換・移転の制度が、
平成12年度の商法改正で会社分割の制度が新設され、
税法もこれにあわせ整備されています。
税務では、通常これらの株式の交換・移転は、株式の譲渡があったものとみなされ、
従来の株主に譲渡所得課税やみなし配当課税等の税負担が生じる可能性があります。
しかし新たに整備された税制では商法の要件を満たし,
さらに税法独自の要件をも満たすことにより、
株式交換・移転、会社分割による課税を繰り延べることができます。
つまり株式交換・移転、会社分割の時点は課税せずに、
その株式交換・移転、会社分割により取得した新株を売却した時点で
課税しようとするものです。
税法独自の要件は簡単にいうと、
株式交換・移転、会社分割の対価としての交付金銭の額が交付株式の5%以下であること
株式交換・移転、会社分割による株式の受入価額が、従前の所有者の簿価以下であること
以上の2要件を満たせば、株式交換・移転、会社分割により、従前の株主に課税負担をかけずに、会社を再編することができます。
また株式交換・移転は別の意味でこれから注目されます。
それは連結納税制度です。
日本ではいまだ連結納税制度について審議中ですが、
欧米ではすでに導入されています。
その欧米のほとんどの連結納税制度において、
連結納税の対象は株式保有割合が80%以上とされています。
日本においても同様に株式保有割合が非常に高い場合のみ
連結納税制度が認められると考えられます。
この場合に、株式の交換や移転により100%子会社を実現することが意味をもちます。
連結納税を実現するために、すなわち親会社と子会社の損益を通算して納税するために、株式の交換や移転の制度を利用して、100%子会社化する手法が多く用いられることになるでしょう。