TOCスループット会計
企業の目的とは何か?
「ザ・ゴール」で紹介されたTOCスループット会計では「企業の目的は現在から将来にわたって金を儲け続けること」としています。
例えば製造業で市場需要が減速しているときに、製品単価を引き下げるために効率を最優先(最適操業度)とした生産量で生産し、在庫を積上げた場合を考えてみましょう。
この場合短期的には製品単価は低いので、売上原価は相対的に低くなります。つまりみかけ上の利益は多くなります。しかしその反面、在庫は増加し、資金は減少します。さらに在庫は将来的には値崩れのリスクもあり、タダでも売れない場合もあります。
このように現在の企業会計における経常利益至上主義は、「現在から将来にわたって金を儲け続ける」という企業の目的と相反してしまう可能性もあるのです。
そこでTOCスループット会計では、経常利益ではなくスループットを最大にすべきとしています。スループットとは製品の売上高から原材料費・外注費を差引いたものであり、変動損益計算における限界利益(売上高−変動費)といえます。TOCスループット会計では、企業の利益はスループット総額から費用を差引いた残額であり、スループット総額の最大化を目指せば企業の生み出すキャッシュも最大にできると考えるのです。
ここで重要なのがスループットとは実際にお客様に販売され企業に入ってきたお金であり、前の例でいう生産量とは一切関係がないという点です。いくら作っても、または仕入れても売れなければ一銭にもなりません。(あたりまえですね。このあたりまえのことが現在の企業会計では通用していないというのも事実です。)
「現在から将来にわたってお金をもうけ続ける」ためにすべきこと
スループットの増大、在庫(原材料費・外注費、仕掛品・製品)の低減、業務費用(原材料費・外注費以外の経費、総人件費を含む)の低減をすべしとしています。これはその実行の順序も示しています。
スループット最大化に注力することにより、従来のコスト削減やリストラ中心のかわいた布から水をしぼりとるような改善から、リードタイム(在庫購入から販売までの時間)の短縮へ、また利益速度つまり時間あたりの利益へと発想の転換を促すことができます。
リードタイムや利益速度などのスピード改善は、キャッシュ-フローの飛躍的な改善をもたらし、その結果スループット額の増大をもたらすからです。またリードタイムの短縮は在庫、特に仕掛在庫の低減をも可能にし、キャッシュフローの更なる改善に貢献します。
「現在から将来にわたってお金を儲け続ける」ための指標
TOCスループット会計では「お金を儲ける」という言葉と同じことを意味する方法として、スループット、在庫、業務費用という3つの指標を挙げています。
それではもう一度「ザ・ゴール」でのジョナ博士の言葉より復習してみましょう。
「スループットとは、販売を通じでお金を作り出す割合のことだ。」
「在庫とは、販売しようとする物を購入するために投資したすべての金のことだ。」
「作業経費とは、在庫をスループットに変えるために費やすお金のことだ。」
実際のTOC導入企業では、これらTOCの指標と経常利益などの企業会計上の指標とを併用しており、リードタイムや単位時間におけるスループットなどの指標を加えて評価の尺度としています。
TOCスループット会計による改善の論拠
1.キャッシュベースの考え方であり、恣意性の余地がない。
2.現場中心の考え方であり、現場の改善とTOC指標の改善とが完全に一致する。
3.スループットの改善に注力することで、縮小均衡の考え方から発想の転換ができる。
以上の点から、TOCスループット会計による改善は、全ての企業に共通の、真の改善手法である、
と言えます。
TOCスループット会計と変動損益計算
TOCスループット会計の考え方に、実務上一番近い考え方をしているのは、変動損益計算です。
変動損益計算は、売上高から、売上高の増減に連動する費用すなわち変動費を差引いて、限界利益を求めます。その限界利益から、売上高の増減にかかわらず定額で発生する費用すなわち固定費を差引いて、経常利益を求める、損益分岐点などの損益分析によく用いられる損益計算の手法です。
一般の損益計算書が、式にすると
売上高−売上原価=売上総利益 売上総利益−販売管理費=営業利益
営業利益+営業外収益−営業外費用=経常利益 に対して
変動損益計算書は
売上高−変動費=限界利益 限界利益−固定費=経常利益 となります。
つまりTOCスループット会計におけるスループットが、変動損益計算では限界利益にあたり、在庫は変動費、業務費用は固定費といえます。
また限界利益をあげ、在庫(変動費)を下げ、固定費を下げることにより、TOCスループット会計におけるスループット、在庫、業務費用の3指標の改善につながります。
このように変動損益計算とTOCスループット会計とは、考え方はもとより、財務数値・指標を現場の改善に活かすコンセプトも、非常に類似しています。
そこで、常世田事務所では、TOCスループット会計の考え方を推進するため、経営の現場における変動損益計算による業務改善をご提案いたします。